屋根より高い…
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 



所謂“旧の暦の上で…”どころか、
ひな祭りが過ぎ、桜が待たれる四月になっても、
いつまでもいつまでも寒を引きずっての、
なかなか油断のならない春だったものが。
さすがにGWを前にしては
いつまでも“ツンデレ”もないかと思うのか。(誰が?)
何だか急に、汗ばむほどの日和が駆け足でやって来て。

 「ところによっては、
  夏日どころか真夏日くらいまで気温が上がってるそうですよ。」
 「ウチはモクレンの花がどっと散るものだからお掃除が大変で。」
 「そろそろ次のお花ですわね。」
 「ハナミズキとか。ツツジに大手鞠に。」
 「藤に馬酔木に。」

連休には各地の公園へシバザクラを見に行く人も多いでしょうね。
弘前や北海道ではこれからが桜ですってね。
○○様はどちらへお出掛けですの?
私はスイスの叔母のところへ。
▽▽様は、香港ですって。
わあ、お買い物が楽しめますわねvv

  ……などなどと。

話の背景というか舞台というかが、
途中から 至極ナチュラルに海外に移ってしまっても、
特に不自然ではない地盤なのは、
今に始まったことでもなくて。
ただ、

 「今年は五月祭が火曜日開催になったので、
  後半のお天気を気にしなきゃあいけませんわね。」
 「連休の真ん中なのは いつものことですが、
  今回は随分とまあド真ん中ですこと。」

妙なことへと“感慨深いことよ”というやりとりになるのが、
こちらの女学園ならではといいますか。
イギリスの風習に端を発する五月のお祭りが、
恒例の行事として華々しく催される伝統があるからで。
大地の女神に今年の豊饒をお祈りするべく、
メイポールを真ん中に取り囲み、
その頂上から延ばされたリボンを手に手に、
フォークロアな衣装をまとい 輪になって踊ったり…はしませんが。
女神を模した“五月の女王”を選び、
隋臣役の侍女二人を引き連れて、しずしずと。
若葉が仄かに萌え始めている野外音楽堂のステージ、
特別に設けられた特別戴冠式の壇上へ上がり、
繊細可憐なティアラをシスター長から授かる儀式を中心に。
この季節にふさわしい演目の合唱や寸劇の発表会があったり、
有志の方々がお届けくださった品々での、
災害基金のためのバザーが催されたり。
食堂やカフェの名物クッキーやスィーツを供される、
ほのぼのしたお茶会があったりと、
どこまで“五月祭”か、端っこのほうは曖昧ながら、
OGの皆様には楽しみになさっておいでの方も多いビッグなイベント。
付属の中等部は言うに及ばず、
初等科や幼稚舎へ通う段階のお子たち…もとえお嬢様がたでさえ、
いつか五月の女王様に選ばれたいと この時期の話題に上らせるほどの


 「…にしては、今年初めて開催日が定まったような気が。」

  なななな、何を仰せか。
  五月祭といやメイデイ、5月1日と決まっております。

 「……?(疑)」
 「ほら久蔵殿も、これまでのお話にそうと書いてあった記憶はないと。」

  いやですよぉ。
  わざわざ記す必要もないことだからじゃないですか。

 「まあまあ、シチさんも久蔵殿も。
  風邪引いて倒れたお人をあんまり苛めない。」

  ヘイさん…優しい……。//////////

 「これ以上 MCを引き伸ばさせても詮無いでしょう。」

  う……………。



……という、お約束の“枕
(ツカミ)”はともかく。
桜の名所の賑わいもそろそろ収まり、
続くは新緑の萌黄色という都内の一角。
閑静な住宅地に鎮座まします こちら様のGWと言えばの、
“五月祭”も間近に控えた頃合いと相成って。
普通一般の女子高生だと
せっかくの連休なのに鬱陶しいとのお声も出かねぬ学校行事に、
喜々として頬染める お嬢様たちの筆頭株。
白百合、ヒナゲシ、紅ばらという、
初夏を代表するお花をこそりと冠された、
学園でも人気を三分しておいでの“三華”様がたが。
連休初日の土曜日、清々しい晴天の下で優雅に過ごしておいで。

 「文化祭ほどに、
  生徒たちだけで用意する催しでもありませんしね。」
 「そうですよね。」
 「……。(頷、頷)」

  招待客へのご案内だの、
  お茶会の手配だのはシスターたちが頑張って下さいますし。

  生徒たちはどちらかというと、
  新入生歓迎のほうへと腕まくり、ですものね。

  ………♪(頷、頷)

新入生の中に
幼稚舎からという生え抜きのお嬢様ばかりじゃあなくの
外部から中途入学という格好で、
新たにお目見えとなる生徒が入り混じるのは、
何も高等部に限った話じゃあないのだが。
それでも
ひとかどの人格も矜持も固まりつつある微妙なお年ごろ、
一番戸惑いも多かろう
多感な頃合いなのでということも配慮してのこと。
戦前からの催しながら、
戦火の時代の沈黙期を経てののち、
これが一番最初に復活したのも、
国内でも屈指と噂に名高いお嬢様学校の、
校風とそれから、各々がお互いに馴染むために、
重要なイベントとしませうという主旨が 後づけされたからに他ならず。
一応は推薦&投票によるものながら、
在校生の二年生から選ばれるのがセオリーの
麗しき女王様の醸す風格やら、それを素直に讃えるお嬢様たちの気風やら。
言葉を尽くすのではなく、肌身で知ってもらいましょというこの催しは。
理屈はどうあれ…を、毎年毎年 正に結果で示しており。
大盛況のうちに幕を閉じ、
その後、生徒間での円満さも増すという喜ばしい効果は もはや鉄板。
殊に昨年度は、

 『ね、白百合のお姉様の姿、おステキでしたでしょう?』
 『ええ、とってもvv』
 『私は紅ばら様の冴え冴えしてらした横顔が…vv』
 『ひなげし様の笑顔ってとってもまろやかで…vv』

思い出しての話題も沸いて、
初対面とか外部編入なんてな壁もあっと言う間に粉砕したほど、
そりゃあ効果抜群だったとか。

 「……ちょぉっと待って下さいまし。」
 「去年は…。」

いやまあ、なんだ。
確か 昨年度の女王様は右京寺様だったとか、
ふと思い出した方もおいでではありましょうが、
そういう描写は あんまりいじらずに
あっさりとスルーしていただければ…。
(苦笑)
で、今年はどういう段取りになっておいでで?と、
新緑を眺めつつのお茶会途中という三華様がたにお聞きすれば、

 「私どもは裏方担当ですわvv」
 「……。(頷、頷)」

当日はもとより前日にも準備に出向くが、そちらは打ち合わせが主。
不慣れな初々しさも、微笑ましいことよと受け取られはするが、
だから…ということから準備期間がないワケじゃあなくて。

 「難しいことへの挑戦ってのは やりませんものね。」

それこそ文化祭じゃないのだから、と。
三木家専属パティシエ様謹製のカシスムースをひと匙、
白い指先にキラリと映える、
銀のフォークで掬い上げた白百合さんだったのへ、

 「久蔵殿はコーラスの伴奏担当ですし、
  シチさんは、野点のお手伝いもなさるとか。」

柔らかな印象のする小さな手での手振りも楽しげに、
すかさず畳み掛けたのがひなげしさん。途端に、

 「いやあの、それは…。///////」

何でここでそれを言いますかと、
端正な白皙のお顔を戸惑いに赤く染め、
あたふたするところが まだまだ可愛いvv
なんでも、お母様譲りのお手前をと、
すぐ昨年卒業なさったお姉様がたから
名指しというご所望のお声がかかったとかで。

 「お着物も着てのことでしょう?」
 「いやいやそこは制服で。」
 「〜〜〜〜〜?(え〜〜〜?)」
 「何で久蔵殿がそこまで残念がりますか。//////」

いかにも残念そうに眉尻を下げた紅ばら様の、
綿毛のような金髪を揺らした涼しい風が、
スズカケの梢をくすぐったそのまま頭上へと抜けてゆき。
陽が差して来たせいだろう、
そちらの方向から落ちた陰が、
少し濃くなってのひるがえったことで
“それ”へ気がついたのがひなげしさんで。

 「あれま…。」

意外なものが宙を泳いでいるじゃあないですかと、
柔らかそうな顎を上げ、
今日はいいお日和の青空が広がっている
頭の上をあらためて見やりつつ、

 「………久蔵殿、実は兄弟がおいでだったとか?」
 「〜〜〜〜。(否、否、否)」

単調なお声で訊かれたそれへ、
いやいやいやいやと、髪を揺さぶってかぶりを振った久蔵は、
確かに、ここ三木家の一人娘だったはずで。
親戚の従兄弟だの若い叔父様だのも同居はしていない。
だってのに、
黒の真鯉に緋鯉と小型の子鯉まで、
五色の吹き流し込みで揃ったこいのぼりが
空の高みで泳いでいる様は
間近から見るとなかなか圧巻でもあって。

 「そういや、初節句のお祝いにって
  こいのぼりや五月人形がたくさん届いた話は聞いたけど。」

何しろ名前が名前だ、
待望の跡取り息子が生まれたのだろうと勘違いをされてのこと。
知らせを受けていた知人の皆様から、
取引先の担当者各位に至るまで、
桃の節句ではなく端午の節句の方へ、
勇ましい武者人形をどどんとお届け下さったのだそうで。
お礼のお便りを出すついで、
確かに飾らせていただきましたという写真を撮った話も一応は聞いたが…と
小首を傾げた平八だったのは。
それはあくまでも過去のお話で、
今じゃあどこの関係筋だとて、彼女の性別くらい御存知だろうし。
こんなややこしいものをわざわざ揚げては、
大きな勘違いをなさった方々への今更の念押し、
そんな間違いをしたこと忘れてないぞという誇示に見えるかも。
だとしたら、
余計な冷や汗かかせるだけじゃないのかしらんと感じたからだが。

 「爺様が。」

訊かれた側は落ち着いたもの、

 「勇ましい子になってほしいと、」
 「そいで、こいのぼりも揚げようじゃないかって?」

七郎次からの確認へ、うんとしっかり頷いた。
滅多なことで動じない久蔵なのは今更な話だが、
箱入り娘で世間を知らぬため…という順番なのが時たま問題で。

 「去年は自粛して揚げなかったが。」

実は毎年のことらしく、
お気に入りのジノリのカップを品よく持ち上げ、
楚々と応じたお嬢様は、
だが…ちろんと視線を動かすと、もう一言付け足してのいわく。

 「近所の男子にからかわれもしたがな。」
 「ははぁ……。」

よくある話で、越して来たばかりだったその坊や、
そのすぐ鼻先にあたるこちらのお宅に高々と揚げられたこいのぼりを見て、
年が近いなら友達になれないかなと思ったらしい。
ところが、

 『…なんだ、女かよ。』
 『〜〜〜。』

よっぽどがっかりしたものか、そうと判ってから以降のしばらくほど
顔を合わせりゃあ
“女のくせにこいのぼりかよ”と突っ掛かって来ての、
終しまいには、

 『こいつ男なんだぜ、実はチン○ンついてんだ。』

そうまで言われちゃあ黙ってられませんと、
キレのある二段蹴りが 実は初めて“びしぃっ”と決まったのが、
その時だったこともあり、余計に忘れ難かったそうで。

 「…久蔵殿。」
 「それっていつの話です?」

おいおいと綺麗な眉を顰めたのが七郎次なら、
ワクワクと身を乗り出したのが平八だったのへ、

 「…4歳。」

ぼそりと返って来た数値の恐ろしさよ。
こいのぼりの御利益は確かにあったようで、
イワシの頭も信心からとは言いますが、

 『大きいイワシがあったもんですよねぇ。』

いやいやいやいや、それは違うぞ、ヘイさんやと。
五郎兵衛さんが慌てて言い聞かせたのはその日の夕餉のころだった。







   〜Fine〜 12.04.28.


  *いらかの波の〜というタイトルは
   昨年 使ったので今年はこっち。
(笑)

  *つか、枕が長すぎで、
   なに書いてんだか
   途中から取り留めがなくなってしまってワヤでした。
   一番書きたかったのは、
   勿論、こいのぼりを巡る小さな坊やとお嬢ちゃんの大ゲンカで、
   男の子みたいな名前のもたらした色々は
   本当に尽きないということで。
(苦笑)
   結局、軍配は久蔵お嬢様に挙がったワケですが。

   「でもそこまでやらかしたんじゃあ、
    向こうが怒鳴り込んで来ませんでしたか?」

   まさか女の子相手とは思わないで、
   ウチの子に何するのと親御が文句を言って来なかったかと聞かれて、
   ううんとかぶりを振った紅ばらさんで。

   「兵庫せんせえは? 謝って来いとか言わなかったの?」

   あ、まだ知り合ってなかったかな?と小首をかしげた七郎次へ、
   ううんとやっぱりかぶりを振った久蔵、
   平然としたお顔のまんま、

   「謝る必要はないと、」

   ウチの無垢なお嬢さんへ先に無礼を働いたのだ、
   蹴られるくらいの覚悟あってのことのはずとかどうとか、
   むしろ向こうへ怒ってたそうで。

   「…あ、もしかしてアレじゃないですか?」
   「なんですよ、ヘイさん。」
   「だからー、
    微笑ましい思い出って格好で
    あとあとの縁が出来ちゃあ面白くないからって。」

   それで、
   謝りになんて行かんでよしって
   取り合わなかったんじゃあ…と。
   平八が苦笑を交えて言ったところが、

   「縁なら継続中だ。」
   「はいぃ?」

   やはり けろりんと応じた久蔵が言うことにゃ。

   「バイク野郎の弓野のことだから。」
   「………あ。」
   「あの、ピンクの頭の?」

   さあぁ、どこで出て来た彼だったか思い出そう!(こらこら)

   「それ以来のケンカ友達?
    友達じゃないけど、ご近所付き合いは続いてる?」
   「そ、そういうもんなのかしら?」


     あああ、終わらないじゃないか。
(苦笑)

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